データ
モデル名:スタインウェイ モデル名 model.5
製造年:1878年製
製造国:アメリカ ニューヨーク製
張弦方法:通常張弦
フロント側:総アグラフ
ピン仕様:総鉄骨
アクション仕様:アメリカ式シングルアクション(スタインウェイ製)
ペダル:3本
鍵盤:88鍵(白鍵:象牙 黒鍵:黒檀)
外装:ローズウッド(修復外装)
今回はスタインウェイのスクウェアピアノを収録しました。スクウェアピアノ自体を知らない方が多いかと思いますがアップライトピアノが普及する前の家庭用ピアノとして使われている楽器でした、しかしアップライトピアノが改良されていくに従いコンパクトなうえに経済性が優れたアップライトピアノが普及するようになると19世紀の中ごろにはヨーロッパで廃れ20世紀に入るころには最後まで使われていたアメリカでも廃れてしまい今ではどこも作らなくなってしまったピアノです。
今まで数多くの楽器を弾いてきましたがこんなに原始的なピアノを弾くのは初めてでしたので最初は弾くことはおろか音を出すのも難しい状態でした。一番の原因はアクションの構造の違いによるものでこのピアノは鍵盤とハンマーが直結しており、今では当たり前のように付いているエスケープメント機構が備わっていないのでハンマーが定位置に戻るまで次の音が出せないのです、これによりモダンピアノの奏法が殆ど役に立たないのです。
何度か足しげく通い弾いたらコツを掴みまともに弾けるようになりました。音は非常に柔らかく高音部は鹿皮のハンマーによりまるでツィンバロンのような音がします、それに対し低音側はそのフルコンサイズの響板サイズによりまるで鐘のようなとてつもなく深く太い音が出ます。音量はグランドピアノのようには出ませんが音色のバリエーションが凄く多く、その簡素なアクション構造によりタッチの微細な変化もキッチリ表現してくれます。
アクションは書いた通り今のピアノとはまるで違うので、はっきり言って弾きづらいですがコントロール性は良いように感じます、具体的にはタッチは非常に浅く、指先にハンマーの重さを直に感じます、更に打鍵後も指にコツンとハンマーが下りてきた衝撃を感じます。
ペダルも少し重さを感じます。ちなみに左のペダルはミュート機能でハンマーと弦の間にフェルトが挟まりクラヴィコードのような音が出ます。真ん中はソステヌート機構ですがこの楽器では未調整で使うことが出来ませんでした、ちなみにこの真ん中のペダルは1880年代に開発されており3本ペダルがあるスクウェアピアノは非常に稀少でほとんどありません。
スタインウェイのスクウェアピアノの最終形態であるこの楽器、たくさんの演奏の引き出しを教えてくれる素晴らしい楽器です。
スクウェアピアノとしては当時最大クラス、冗談ではなくビリヤード台と同じくらい大きい。弦が左から右へと張られている。
弦の上に並んでいるのがダンパー。見て分かる通り整備性が恐ろしく悪い、調律するのに大屋根とダンパーを外す必要がある。
中音域からハンマーは革巻きになる。しかも弦が半円形に並んでいるのでハンマーも蒲鉾状に並んでいる、ハンマー同士のクリアランスは1mm以下で調整が非常に難しいらしい。
横から見たハンマー。フォルテピアノとは違いフェルト越しに革が張られている、これのお陰で今のピアノとは全然違う音がする。
鍵盤部。現代のピアノと違い鍵盤長が不均等でしかも高音につれ長くなっていく。この不均等な構造のせいでタッチが音域によって全く違うのである。
非常に貴重な3本ペダル。装飾も当時はこれがスタンダードで、もちろん手彫りである。ちなみにこのピアノは当時、現在の貨幣価値で2000万円にもなる超高級品であった。
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